住宅購入を考えるとき、多くの人が直面するのが「住宅価格の高騰」という現実です。かつてのように一人の収入だけで理想の家を手に入れるのは、特に都市部では年々難しくなっています。
しかし、諦める必要はありません。今、夫婦やパートナーが協力して住宅ローンを組む「共同借入」が、特別な選択肢ではなく「新常識」となっています。
このコラムでは、データに基づきながら、共同借入の代表的な3つの方法「ペアローン」「収入合算(連帯債務)」「収入合算(連帯保証)」を徹底比較し、それぞれのメリット・デメリットから、将来のリスクまでを網羅的に解説します。
なぜ、共同でローンを組む世帯がこれほど増えているのでしょうか。その背景には、公的なデータが示す、避けては通れない市場の変化があります。
1-1. 止まらない住宅価格の上昇
国土交通省が公表する「不動産価格指数」を見ると、近年の住宅価格の動向は一目瞭然です。2010年の価格を100とした場合、全国のマンション価格指数は200を超える数値を記録。これは、わずか十数年でマンション価格が全国平均で2倍以上に高騰したことを意味します。
住宅金融支援機構の調査でも、マンション購入にかかる全国平均資金は約5,592万円(2024年、前年より347万円増)に達しており、単独の収入でこの金額をまかなうことの難しさがうかがえます。
1-2. 急増する共同借入という選択
この価格高騰という現実を乗り越えるため、多くの方が選択しているのが、二人分の収入を合算して借入能力を高める「共同借入」です。
住宅金融支援機構の調査(下表)では、ペアローンの利用率が2024年には39.3%となっており、今や住宅ローンを組む約3組に1組以上がペアローンまたは収入合算を選択している計算になります。
特に20歳~29歳の若い世代では、67.1%がペアローンまたは収入合算を選択しています。
この傾向は、もはや一部の世帯の特殊な事情ではなく、経済合理性に基づいた必然的な選択となっているのです。
共同で住宅ローンを組む方法は、主に3種類あります。それぞれ契約形態や責任の範囲が全く異なります。まずは、それぞれの基本的な仕組みを理解しましょう。
2-1. ペアローン:2本の契約で、互いが独立した債務者
仕組み |
1つの物件に対し、夫婦それぞれが独立した住宅ローン契約を結びます。契約は2本になり、お互いが相手のローンの連帯保証人になるのが一般的です。 |
ポイント |
物件の所有権は共有しますが、ローン債務はそれぞれが個別に負います。財務的な独立性が最も高い方法です。 |
2-2. 収入合算(連帯債務):1本の契約を、二人で同等に背負う
仕組み |
夫婦の一方が主たる債務者となり、もう一方の収入を合算して審査を受けます。契約は1本ですが、収入合算者も「連帯債務者」として、ローン全額に対して主債務者と全く同じ返済義務を負います。 |
ポイント |
金融機関は、どちらに対してもローン全額の返済を請求できます。双方が100%の責任を負う「完全な財務的統合」といえるでしょう。 |
2-3. 収入合算(連帯保証):1本の契約を、一方が保証する
仕組み |
契約者が主たる債務者、パートナーがその債務を保証する「連帯保証人」となる方法です。契約は1本です。 |
ポイント |
連帯保証人の返済義務は、主たる債務者の返済が滞った場合に発生します。しかし、一度義務が発生すれば、ローン全額に対して責任を負う点は連帯債務と同じです。所有権は原則として主債務者の単独名義となります。 |
どの方法を選ぶかによって、税金の控除額や初期費用、金利の選び方まで大きく変わってきます。ここでは、具体的な項目ごとに3つの選択肢を比較検討します。
比較表:3つの方法が一目でわかる!
3-1. 減税効果を最大化する「住宅ローン控除」
住宅ローン控除(2025年版)は、年末ローン残高の0.7%が最大13年間、税金から戻ってくる強力な減税制度です。
ペアローン&連帯債務 > 連帯保証 :「ペアローン&連帯債務」に優位性あり
ペアローン 連帯債務 |
夫婦それぞれが債務者となるため、二人とも住宅ローン控除を申請できます。世帯全体で最も大きな節税効果が期待できます。 ただし、連帯債務のときは、債務の負担割合に応じて控除を受けることになります。 |
連帯保証 |
控除を受けられるのは主たる債務者のみ。 連帯保証人は収入を提供しても、税制上の恩恵は受けられません。 |
3-2. 見逃せない「初期費用」の違い
金銭消費貸借契約時には、ローン取扱手数料や印紙税が、ローン実行時には抵当権設定登記費用などがかかります。
収入合算(連帯債務・連帯保証) > ペアローン :「収入合算(連帯債務・連帯保証)」に優位性あり
連帯債務 |
契約が1本なので、諸費用も1契約分で済みます。初期費用を抑えたい場合に有利です。 |
ペアローン |
金銭諸費貸借契約や抵当権設定契約が2本になるため、諸費用が原則として2契約分かかり、初期費用が高額になります。 |
3-3. 柔軟な返済計画を立てる「金利選択」
ペアローン >収入合算(連帯債務・連帯保証):「ペアローン」に優位性あり
ペアローン |
夫は「全期間固定金利」、妻は「変動金利」など、それぞれが異なる金利タイプ(借入年数を分けることも可能)を選べます。将来の金利変動リスクを世帯で分散させる戦略も可能です。 |
連帯債務 連帯保証 |
ローン契約が1本のため、金利タイプも1種類しか選べません |
このように、初期費用を抑えたいなら収入合算、長期的な税制メリットや返済計画の柔軟性を重視するならペアローン、という明確なトレードオフが存在します。
住宅ローンは数十年にわたる契約です。その間に万が一のことがあった場合、家族を守るのが団体信用生命保険(団信)です。共同借入の場合、この団信の仕組みが非常に重要になります。
4-1. 標準的な団信の「落とし穴」
標準的な団信は、契約者(債務者)が亡くなった場合などにローン残高がゼロになる保険です。しかし、共同借入では保障に隙が生まれることがあります。
ペアローン (標準団信) |
もし一方が亡くなっても、亡くなった方のローンしか完済されません。 残された方は、自分のローンを一人で返済し続ける必要があります。 |
連帯債務 ・連帯保証 (標準団信) |
団信に加入できるのは主たる債務者のみが一般的です。 もし団信に加入していないパートナー(連帯債務者や連帯保証人)が亡くなっても、ローン残高は減りません。 |
4-2. 弱点を克服する「連生団信」とは?
こうした共同借入のリスクを解消するのが「連生団体信用生命保険(連生団信)」です。
仕組み |
夫婦のどちらか一方に万が一のことがあった場合に、ローン残高の全額がゼロになる保険です。 |
近年の動向 |
これまでは連帯債務型のローンで主に提供されてきましたが、近年、ペアローン向けの連生団信を取り扱う金融機関も登場しています。 |
ペアローン向け連生団信の登場により、「保障の手厚さ(連帯債務)」と「税制メリット(ペアローン)」の”いいとこ取り”が可能になりつつあります。
ただし、一般的に基準金利に年0.1%〜0.3%程度が上乗せされるため、コストと保障内容をしっかり比較検討することが大切です。
契約時や返済中の手続きを誤ると、思わぬ税金が発生したり、将来トラブルになったりする可能性があります。
5-1. 「贈与税の罠」を回避する持分割合のルール
共同名義で不動産を登記する際、最も重要な原則があります。それは、「頭金やローンの負担割合」と「不動産の所有権の割合(持分割合)」を完全に一致させることです。
もし、実際の資金負担と持分割合が異なると、負担額以上に持分を得た側が「贈与」を受けたとみなされ、高額な贈与税が課される可能性があります。
【危険な事例】
物件価格5,000万円に対し、夫が3,000万円、妻が2,000万円を負担。しかし登記は安易に「2分の1ずつ」にした。
⇒ この場合、妻は負担額より500万円分多く資産を得たことになり、この500万円が贈与税の対象となる可能性があります。
「夫婦だから半分ずつ」という安易な判断は禁物です。司法書士などの専門家と相談し、資金負担の実態に合わせて正確に登記しましょう。
5-2. 離婚や収入減…将来の変化にどう備えるか
離婚、転職、育児休業による収入減など、長期の返済中には様々な生活の変化が起こり得ます。共同でローンを組む場合、これらの影響はより複雑になります。特に離婚時には、共有名義の不動産や残債をどう分けるかという難しい問題が生じます。
ローンを組む段階で、こうした将来起こりうるリスクについてもしっかりパートナーと話し合っておくことが、長期的な安心につながります。
最後に、これまでの情報を基に、具体的な世帯状況に応じた最適なシナリオを提案します。
シナリオ別 おすすめ住宅ローン
【シナリオA】 夫婦ともに安定した正社員の世帯
推奨 |
ペアローン(+連生団信) |
理由 |
二人分の住宅ローン控除を最大限活用できるから、節税効果も高く、金利リスクの分散も可能。ペアローン最大の弱点だった保障面も、連生団信でカバーできます。 ただし、お勤め先や勤務状況によって、次のシナリオBを選択しなければならないことがあります。 |
【シナリオB】 一方は安定高収入、他方は契約社員やパートタイムの世帯
推奨 |
収入合算(連帯債務型)(+連生団信) |
理由 |
パートナーが単独でローン審査に通りにくい場合でも、収入合算で借入額を増やせます。二人とも住宅ローン控除の対象となり、連生団信で保障も手厚くできるため、バランスの取れた選択肢です。 ただし、パートナーの条件しだいでは、次のシ1ナリオCを選択せざるをえないこともあります。 |
【シナリオC】 初期費用をとにかく抑えたい世帯
検討 |
収入合算(連帯保証型)を慎重に検討 |
理由 |
初期費用は最も安く済みますが、連帯保証人は住宅ローン控除も団信の保障も受けられないなど、デメリットもある方法です。 この選択肢は、他の方法が難しい場合に限定し、リスクを十分に理解した上で検討すべきでしょう。 |
住宅ローンは、家族の未来を形作る重要な決断です。このコラムが、あなたの世帯にとって最も賢明で安全な選択をするための一助となれば幸いです。
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