Project Story #03

産学パートナーシップで
実現した国産杉パネル
「SUGINOKA【スギノカ】」。
香りある住空間で、
ポラス独自の付加価値を創出

ポラスグループは、国産杉の有効活用と快適な住空間の創出を同時に叶える内装壁パネル「SUGINOKA【スギノカ】」(以下表記、スギノカ)を開発した。従来、国産杉建材は住宅を中心に採用されてきたが、高価であることがネックとなって、現在の利用はかつてほど活発ではない。また、国産杉の中でも建材に利用されるのは、白くてきれいな“辺材”と呼ばれる丸太の外側部分で、“心材”と呼ばれる丸太の中心部分は個性の強さと扱いの難しさから住宅建材には採用されてこなかった。ポラスグループはそんな心材に目をつけ、新しい内装壁パネルの開発・市場への投入に挑戦。2020年度「グッドデザイン賞」を受賞するなど高い評価を獲得した。

Member

  • 戸建分譲設計本部 設計一部

    野村 壮一郎Soichiro Nomura

    1996年入社

    入社後、分譲住宅の企画設計に従事。その後、一時分譲住宅の販売を担当したが、一貫して分譲住宅の企画設計に携わってきた。2017年より設計一部全体を統括する部長に着任。

  • 購買部 商品開発課

    上田 亮Ryo Ueda

    入社後、注文住宅の施工管理業務に従事。その後、注文・分譲住宅の商品開発、積算業務、プロモーション業務等を経て、2016年自ら希望を出し購買部に異動。2020年より現職。

chapter

01

新しい建材開発、
そして国産杉の利用促進に。
「杉の香り」に着目して始まった
プロジェクト

数ある木材の中でも、柔らかく、軽く、加工がしやすい。そんな杉は長きにわたって、構造材としてはもちろん、内装材や家具類まで、幅広く使われてきた。日本の気候にも適しており、日本人にとって最も身近な木材といえる。さらに、戦後造成された人工林が利用期を迎えていることから、林野庁主導による国産材の利用促進の動きもあり、国産杉の利用は業界全体のテーマの一つともされている。しかし近年、安価な輸入木材が流通し始めたことにより、比較的高価な国産杉は利用率の伸び悩みに直面している。
杉が建材として利用される際に最も重宝されるのは、“辺材”と呼ばれる樹皮に近い丸太の外側部分。なぜなら、年輪を重ねながら成長していく木の外側には新しい細胞が集まっており、全体的に白っぽいため、明るい空間づくりに最適だから。また、それに加えて扱いやすく、同じ部材を多く揃えなくてはならない建材に適しているというのも理由の一つだ。一方で、“心材”と呼ばれる丸太の中心部分は、木の芯に近いため節や強い木目が出やすく、赤身がかった色をしていることから、建材としては避けられる傾向にあった。ただ、心材には辺材にはない特長もある。長い時間をかけて心材に溜まった樹脂成分には、虫に食べられにくくする防虫成分や、腐りにくくする防腐成分、独特の香り成分が豊富に含まれている。「杉の香り」の大元は、心材にこそあるのだ。
この「杉の香り」に着目して始動したプロジェクト。しかしそこには、偶然ともいえるあるきっかけがあった。プロジェクトリーダーを務めた野村壮一郎はこう語る。
「私の部下が、プライベートで東京大学大学院薬学系研究科の準教授の方と知り合ったのがきっかけでした。その交流の中でその方が主に香りを研究していることを知り、さらに杉の香りには鎮静作用があり特に赤身部分に多く芳香成分が含まれることを聞いたのです。部下からその話を聞き、新しい建材開発につながるだけでなく、国産杉利用促進の一助になるのではと思い、共同プロジェクトを立ち上げることにしました」(野村)

chapter

02

「フィトンチッド」の科学的根拠、
そして「低温乾燥」という難題。
産学協働で立ち向かい、
ついに突破口を見つける。

野村たちが目指したのは、端的に言えば、鎮静作用があるとされる「杉の香り」を感じられる内装材であり、それによる快適空間の提供を通して、ポラスグループの分譲住宅に付加価値を創出すること。実現に向けた課題は二つあった。まず一つ目は、「杉の香り」の元である「フィトンチッド」という芳香成分に、鎮静作用やリラックス効果があるのかといった効能の科学的根拠を明示すること。そして二つ目が、建材製造過程で「フィトンチッド」をいかに残存できるか。この二つの課題をクリアすることが、プロジェクトを前に進める上で必要だった。
「効能のエビデンスに関しては、プロジェクトのきっかけとなった東京大学大学院薬学系研究科の先生にご協力いただきました。杉材チップを使ったマウスの脳波測定を行い、睡眠の質と時間の増加データを取得・解析。確証が得られるまで、繰り返し実証実験を進めていただきました。プロジェクトは、ここへきて産学協働体制に。また、全国森林組合連合会により最適な材を適時期に調達するスキームも組み立てられました。
しかし、二つ目の課題であった『フィトンチッド』の残存に関しては、特に難航しました。木材は予めよく乾燥しておくことが求められるため、100℃前後の高温乾燥が一般的なのですが、それでは「フィトンチッド」は失われ、「杉の香り」が大幅に減少してしまいます。そこで、45℃前後の低温乾燥が可能な建材メーカーの協力が必要でしたが、その数は極めて限られていたのです。」(野村)
この時期、プロジェクトに参加したのが購買部の上田亮である。上田は、購買部における商品開発・選定を強化したいという想いから、購買部への異動を希望して着任。課題であった「低温乾燥」の実現に奔走した。
「時間もコストもかかる低温乾燥を実現するのは容易ではありませんでした。そもそも可能な建材メーカーが少ない中で、全国森林組合連合会から当初紹介された建材メーカーに掛け合ったところ、スキルやコスト等の面で対応が難しく、プロジェクトは暗礁に乗り上げました。なんとかコストダウンを図るべく、試行錯誤の末に辿り着いたのが『杉1本の利用率を上げる』という案でした。それに応じていただいたのが大阪の建材メーカー(株)モリアン様です。それが突破口となって、プロジェクトは再び動き出しました。」(上田)

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03

芳香効果とデザイン性の両立、
そして、製品品質の統一感という
課題に挑む

東京大学では効能のエビデンス取得が、(株)モリアンで低温乾燥の取り組みが同時並行で進められていく最中、野村が着手したのは内装パネルの具体的なデザインだった。野村が目指したのは、芳香効果とデザイン性の両立。木目の強い心材をいかに建材に応用し、芳香効果を損なうことなくモダンに表現するか。決して心材を単に平板のパネルにするわけではないのだ。野村のデザイナーとしての力量が試される取り組みだった。
「芳香効果を高めるには、香りを発するための表面積を多く確保する必要があります。そこで採用したのが、掘り込みによるボーダー加工(写真参照)。複数のパターンを考案しましたが、このボーダー加工は最も時間を費やしたプロセスです。こうすることで、効率的に芳香を放出させるだけでなく、立体感を出すことによって心材のデメリットであった“木目の強さ”や“色味の濃さ”を緩和させ、内装材としても扱いやすいように工夫しました。また、もちろんデザインや芳香効果だけでなく、安全性や施工のしやすさ、将来的な変形防止のための工夫、コスト等、多角的な観点からデザイン構築を進めました。
とはいえ、これは建材開発であるとともに、今回は国産材の利用促進というテーマもあったため、汎用性にもこだわりました。派手で特別なものを作るのはそれほど難しくはありませんが、どんな空間にもマッチするものを開発するのは容易ではないのです」(野村)
主に、建材メーカー(株)モリアンとの交渉、建材商品の評価、コストダウン等を担当していた上田だが、野村と並走して商品開発にも深く関わっていった。
「そもそも分譲住宅の資材として、ここまでデリケートな天然木を使うことはほぼありません。なぜなら、天然木は調達産地によって色や品質が大きく異なるため、製品品質の統一が困難だからです。そこで、今回のスギノカのプロジェクトでは、できるだけ色のバラツキを抑えるべく、(株)モリアン様と相談して加工時に木ごとの色違いをどこまで許容するかの基準を設けたり、実際の現場でできるだけ自然に配置していただけるよう最適な施工手順を検討したりと、各方面と調整を重ねながら課題をクリアしていきました。極めてチャレンジングな取り組みだったと実感しています。」(上田)

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04

産学パートナーシップが生んだ、
新しいものづくりのカタチ

こうして、「スギノカ」と名付けられた内装パネルは、最初15棟の分譲住宅の内装に導入された。リラックス効果を生み出すリビングや、特徴的なデザインで空間にアクセントを加えたキッチン、鎮静効果により快適な睡眠を叶える寝室などに適用した。その後、さらにデザイン性・施工性の向上などの改善を重ね、現在はおよそ100棟の分譲住宅に導入している。こうした「スギノカ」は、分譲住宅を購入いただいたお客様から「杉の香りに癒される」と高い評価を得ているだけでなく、(株)モリアン、全国森林組合連合会、東京大学大学院薬学研究科とともにウッドデザイン賞2019優秀賞「林野庁長官賞」を受賞。国産杉の付加価値を向上させたことに加え、木材流通の中では川下の立場にあるハウスメーカー側から川上にあたる生産側に向けて国産杉の利用促進を働きかけたことが高く評価された。さらに翌2020年は、同じく4者共同で「グッドデザイン賞」を受賞し、「私の選んだ一品 - 2020年度グッドデザイン賞審査委員セレクション」にも選出された。
今回のプロジェクトのリーダーでありデザインを担当した野村は、内装パネルのデザイナーというわけではない。入社以来、各住戸のプランニングから街のランドスケープデザインまで、分譲住宅の総合的な企画設計に携わってきた。そんな野村が、ミクロともいえるパネルデザインまで手掛けるのはなぜなのか。
「ポラスグループの分譲住宅の独自性を打ち出し、他社と差別化を図るべく、実は今までもオリジナル商品を多く手掛けてきました。その根底にあるのは、“誰もやったことがないことをやりたい”という想いです。今後は、「スギノカ」を採用した空間を継続的に住まい手に提供するのと同時に、パネルのデザインをさらに進化させたいですし、他の素材も模索してみたい。ポラス初、業界初となるような製品開発を通して、ポラスグループの分譲住宅に付加価値を創出していきたいです」(野村)
一方、購買部として商品開発の強化を考えていた上田にとって「スギノカ」のプロジェクトは一つの節目となった。
「今回は野村部長から、天然木への想いや企画、デザインについて多くを学ばせていただき、非常に刺激的でした。実際に、このプロジェクトで得た知見をもとに、次なるオリジナルフロアの開発にもつながっています。今後も、野村部長のみならず、分譲住宅の企画設計の方々と連携・協働し、ベクトルを合わせた商品開発を進めていきたいと考えています」(上田)
産学パートナーショップによって展開し、高い評価を獲得した今回の「スギノカ」のプロジェクト。当プロジェクトは、ポラスグループの新しい商品づくり・家づくりの可能性を指し示す大きな一歩となった。