Project Story #02

暮らしの「断片」が
街に表出する、
千葉県・流山の分譲住宅地
「FRAGMENTS」。
学生コンペ作品
実物件化プロジェクト。

2015年、ポラスグループの創業45周年事業としてスタートした「学生・建築デザインコンペティション」。大学院や大学、高等専門学校などに通う学生を対象に自由で新鮮なアイデアを発表する機会を設けることで、将来活躍が期待される学生の成長・飛躍の一助となることを目指している。そして今回、2019年に応募された作品の中から選ばれたデザインの実物件化が決定、プロジェクトが始動した。

Member

  • グリーン開発事業部 設計部 企画設計課

    河内 忠夫Tadao Kawachi

    1998年入社

    入社後、グリーン開発事業部実施設計課に配属。分譲住宅の詳細設計業務に2年間従事した後、営業部門を担当。2002年、企画設計課への異動後は、現在に至るまで分譲住宅の企画・プランニングを担当している。

chapter

01

ポラスの街づくりの考えと共鳴する
学生のアイデアを採択

7回目を迎えた「学生・建築デザインコンペティション」のテーマは、「地球につながる新しい街の風景」。登録件数980件、応募作品数474点の中から、一次審査を通過した4組がプレゼンテーションを行い、最優秀賞、優秀賞、入賞が決定した。いずれも力作であり斬新なアイデアに溢れているものの、その評価と実物件化は直接関係ない。なぜならその選考は、コンペティション審査とは別に、分譲企画設計部門のスタッフが応募作品からピックアップして行われるからだ。その一人が、今回のプロジェクトにおいて全体のマネジメントを担った河内忠夫である。河内は、20年近くにわたって分譲住宅の企画設計を手掛けてきた、街づくりのプロフェッショナル。
「実物件化に際してまずポイントとなるのは、学生の提案とポラスの街づくりの考え方に共鳴し合う点があること。つまり、『我々が学生のアイデアに共感できるか』『我々の街づくりにエッセンスとして取り入れられるか』が最重要項目です。加えて、どんなに素晴らしいアイデアでも欠かせないのは、『実現可能か』。アイデアそのものや街づくりの方向性、コスト面など様々な観点から検討を重ね、採用するアイデアを選定していきました。」(河内)

その中で、ある学生の作品が目に留まった。そのコンセプトは「住む人の暮らしぶりが街の顔になるコミュニティ」。住宅だけのデザインに留まらず、生活や環境にフォーカスする視点が印象的だった。なぜならポラスグループには、分譲住宅による街づくりを通して、新しい住まいの価値創造に取り組んできた背景があり、常に地域の文化・風土との融合、そこに住む人々の生活・暮らし方に寄り添う姿勢がある。だからこそ、応募作品で大事にされていた視点には、ポラスグループがこれまで取り組んできた街づくりの考えと共鳴し合うものがあったのだ。学生の作品は、ポラスグループの街づくりの考え方と合致すると判断され、実物件化の採用が決定した。同時に社内ではプロジェクトチームが発足。コンペティション段階ですでに用地は確保されていたため、そのエリア特性に応じた街づくりが始動した。場所は、千葉県・流山市――。

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02

暮らしの断片、情景の断片が表出する
コミュニティの創造

河内らは学生とミーティングを重ね、方向性やコンセプトを明確にしていった。学生の意見も取り入れる中で、河内の部下であるプランニング担当者がある言葉を打ち出した。それが、“断片”を意味する「FRAGMENTS」だ。後に新たな分譲地の名称に採用されていくことになる「FRAGMENTS」とは、一体何を意味するのか。
「学生たちの作品コンセプトをさらにブラッシュアップさせていく中で、私たちはあるイメージを共有しました。それは、たとえば昭和の原風景。夕方、遊び疲れた子どもたちが家に帰ってくると、母親が夕食を作っている。ご近所も同様で、当たり前の相互理解がある。あるいは、古くは一般的な和風住宅に備えられていた「土間」や「縁側」の存在が外と接する場になり、自然発生的なコミュニケーションが生まれる。このように、個々の暮らしの断片、情景の断片が外ににじみ出ることで、人と人とのあるべき温かい関係性が創られていく。これは、かつてあった『向こう三軒両どなり』の復活ともいえるもので、そうしたコミュニティを象徴する言葉として、『FRAGMENTS』が生まれました。」(河内)

では、この「FRAGMENTS」というコンセプトを、住宅設計においてどのように具現化するか。言い換えれば、住民の間に自然発生的なコミュニケーションを生み出すために何が必要かということだ。学生との検討・協議の中から、建物と外部の間に「中間領域」を設けるという新しいアイデアが生まれた。それはただの住民の共有エリアではなく、各戸の内と外の合間に「土間」と「縁側」を設けるというものだった。
一般的に「土間」は、玄関として、そして趣味を楽しむスペースとして活用されているが、今回における最大のポイントはそこではない。家の中にいながら外部とつながりを持つための家の内と外との接地点としての役割だ。もう一つの「縁側」は、そこからさらにコミュニティ形成につながるようにリビングに面して配置した。気軽に外に出ることができる上、空の下でくつろぎながら、道行く人との何気ない交流を楽しめるようになっている。
31棟からなる戸建分譲住宅の中で、2棟のプランニングはアイデアを提供した学生自身が担当した。学生は料理や読書を「暮らしの断片」として捉え、キッチンや本棚を表出するデザインを提案し、実際に取り入れられることになった。

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03

緑の価値を創造する
「流山グリーンチェーン戦略」と
コンセプトが合致

今回のプロジェクトは、流山市の区画整理事業の一環に指定されている。区画整理は、無秩序な市街化を防止するだけでなく、既成市街地と連携し、駅・沿線と一体となった良好な環境を創出することを目的とした事業だ。さらに、東京に最も近い「森」があるエリアの一つである流山市には、環境価値を高めるための取り組みとして「流山グリーンチェーン戦略」がある。「グリーンチェーン戦略」とは、各住宅や店舗等の建築の敷地内に多くの緑を設けることを推奨する取り組みのこと。その取り組みが連鎖し緑が広がっていくことにより、街全体の環境価値向上を目指している。開発事業は、すべてこの「グリーンチェーン戦略」の認定を受ける必要があり、分譲地では家々をコンクリートなどのブロックで覆うのではなく、市が定めた植栽の位置や数などの細かな基準を満たすことが求められた。
一方で、未来へ続く緑豊かな街づくりを目指す「流山グリーンチェーン戦略」は、「サスティナブルなコミュニティは住む人を幸せにする」というポラスグループの理念、そして、まさしく「FRAGMENTS」のコンセプトと一致するものだった。「流山グリーンチェーン戦略」で植樹する緑は、たとえば、人の目の高さより低い位置であることが規定されているが、住民間の交流、コミュニケーションを重視する「FRAGMENTS」にとっては、そのコンセプトが活きる規定でもあった。
「プロジェクトの現場は、つくばエキスプレス線沿線の流山セントラルパーク駅周辺で、流山市の中でも森や農地の風景がまだ色濃く残っているエリア。こうした自然の美しさと街づくりを共存させる考えのもとに『グリーンチェーン戦略』はあります。そんな中だからこそ、コンクリートブロックで区割りして内にこもるのではなく、緑を媒介にしてコミュニティを育む『FRAGMENTS』を実現できたと思っています。」(河内)

また、分譲地内には収納ベンチ「KONOBA」を設置した。「KONOBA」が意味するのは、その名の通り「この場」。住民のコミュニケーションの場となることはもちろん、緑の管理をはじめとしたコミュニティ活動に必要な道具を収納できるようになっている。

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04

「灯かりのいえなみ」を
分譲地の外にも表出させていきたい

「緑の価値」創造に加えて、「FRAGMENTS」のもう一つの特長が、「灯かりのいえなみ協定」の存在である。「灯かりのいえなみ協定」とは、住民の協力で光の届かない通りを作らないようにするライティング計画のこと。夜になると街路灯をはじめ、全邸に設置された常夜灯やポーチ灯が自動的に点灯し、街の沿道と夜道の足元を同時に照らす。安全性の確保はもちろん、夜の街を灯りが彩るため、景観も美しい。さらに、自動点灯しないことが長く続けば、近隣の住民が異変に気付き、そこからコミュニケーションが生まれる可能性もある。「灯かり」がコミュニティを育む要素の一つとなっているのだ。「灯かりのいえなみ協定」は、ポラスグループのほとんどの分譲住宅に導入されており、その取り組みに対して、2020年度グッドデザイン賞を受賞した。
「灯かりの費用は住民の方が負担するため、『FRAGMENTS』にお住まいの方々に関しては協定への理解をいただいて購入・入居していただいていますが、周辺の既存住宅街にまではまだこの認識が広まっていません。今後は、既存住宅街の自治会と『FRAGMENTS』の住民との橋渡しを担いながら、『FRAGMENTS』の区域だけにとどまらず、防犯にも、景観にも有効性を発揮する灯かりのいえなみを実現していきたいと思っています。社内の事例として、別の分譲地で150軒の既存住民の方々と協定を結んだ実績も。こうした働きかけが、分譲地内のみならず分譲地の外に表出していくことで、新たなコミュニティ形成のきっかけになるとも考えています。」(河内)

2019年11月に着工した「FRAGMENTS」は、建物の完成を前に31棟すべて完売するという快挙を達成した。河内自身は、販売に苦戦することも想定していたが、それは杞憂に終わった。「FRAGMENTS」のコンセプトは、多くの人に浸透、支持されたのである。
「サスティナブルなコミュニティは住む人を幸せにする」という、私たちの理念を象徴し、100年後につながる分譲地として提案したのが『FRAGMENTS』です。今回は学生の方のアイデアを実物件化したプロジェクトでしたが、今後も学生の方々を支援し、その成長の一助になる取り組みを、ポラスグループとして実践していきたいと考えています。」(河内)