HISTORY

01 きっかけは3ミリにこだわる
お客様からのクレーム

ある日のこと、久しぶりにクレームの電話が鳴った。早速出向いていくと、日本屈指の大手電機メーカーでラジオ製作を任されている課長氏が憮然とした表情で言った。四間廊下の右隅と左隅の高さが三ミリほど違う、これは手抜き工事ではないか。しかし、日本古来の木造軸組み工法では、その程度の誤差は誤差のうちに入らないし、日々の生活にもほとんど支障はない。だからこれは手抜き工事ではない、と説明して何とか納得してもらったが、今度は、廊下の幅が右隅と左隅では五ミリ違う、工事をやり直せと言い出した。これも建築の世界では常識の範囲内であり、手抜き工事と非難されるいわれはない。中内は、ムっとくる感情を抑えながら努めて冷静に説明した。その結果、渋々ながら納得してもらうことができたが、そのとき中内はふと思った。待てよ、われわれが常識としているものはあくまでも作り手側の常識であって、顧客の常識ではないかもしれない。

02 本当の意味での顧客第一主義

聞くところによれば、件の課長氏が関わっている音響機器や精密機器の世界では一ミリの狂いも許されず、そんな製品を納入すればすぐさま返品されるというではないか。「担当者の腕が悪いものですから」と言ったところで許される問題ではない、という話だ。そうした一ミリ、二ミリにこだわる姿勢が、われわれ建築業界でも求められているのではないか。また、そこまで精度を高めて初めて、本当の意味での顧客第一主義といえるのではないか。自分は誰よりも信用第一主義、顧客第一主義を貫いてきたという自負が中内にはあった。だがそれは、独りよがりの信用第一主義、顧客第一主義だったのではないか。これからは徹頭徹尾、顧客の側に立った家づくりをしていこうーそう決意した中内が着手したのが、プレカット工法の導入だった。

03 一流の大工もかなわない
工期と精度

それまでの家づくりでは、大工が建築現場で独特の符丁を使いながら墨付けや刻みの作業をするのがふつうだった。だから、多少の狂いが生じるのは当たり前とされてきたのだが、この作業をすべて工場の機械に任せれば、刻みの精度が高まるだけでなく、浮いた時間と労力を集中的に現場での仕事に向けられるようになる。それを可能にするのがプレカット工法なのだが、とりわけCAD/CAMによる全自動プレカット加工機を導入すると、その精度と効率性は著しく向上する。刻みの誤差は0.1mm以下。 加工時間にいたっては、手作業で二~三週間かかる作業をわずか八時間で終わらせてしまうというから驚異的だ。これでは、一流大工の腕をもってしても太刀打ちできるわけがない。

04 そして日本一へ。
日本の住宅産業の常識をつくる。

昭和57年12月、中内はすぐさま導入を命じた。だが、プレカット工法が狙いどおりに稼働するまでは幾多の困難があった。故障ばかりが多く、いったん故障すると最先端技術を駆使した機械であるため、修理にべらぼうな時間と経費がかかったのだ。たまりかねた幹部社員は、「成功の見込みはありません。金を食うばかりのこんなプロジェクトは中止したほうがいいと思います」と具申した。それに対して、プレカット工法の重要性と将来性を見越していた中内は、「どんなに困難なことでも、成功するまでやりつづければ必ず成功するんだ」と、まったく取り合おうとしなかった。そんな中内の堅い決意が功を奏したのだろう、プレカット工法はその後、いくつかの改良を加えられて見事に稼働。いまでは日本一の生産量を誇る。

出典:「住宅産業の星をめざして 中内俊三物語」より